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さようなら! マゼール (4)

 マゼールとピッツバーグSOのシベリウス交響曲全集から、手元にあった数曲を聴いてみました。
マゼールに申し訳なかった、と強く思いました。
とてもとても素晴らしいのです!!
1980年代のウィーンPOとの多くの録音は、今聞き直してみても印象は変わらなかったのですが、このシベリウスは、じっくり聞かずにしまい込んだままだったんです。
予定されていたベルリンフィルとの演奏でなく、アメリカのオケで硬い音のCBS録音だからというのもありましたが、自分の中で、シベリウスの交響曲は、3番はカム、4番はカラヤン、6番はバルビローリ、7番はベルグルンド、そして1番2番5番がマゼールの旧盤と思い込んでいました。
これらの演奏と簡単に比較していただけなんですね。
さて、旧録音である1960年代のマゼールとウィーンPOとのシベリウス全集は今でも強烈で大好きな演奏ですが、どうしても好きになれなかったのが、3番、4番、6番でした。今回聴き直しても印象は変わりませんでした。
そこで、ピッツバーグSOとの盤では4番から聴いてみました。最も渋くとっつきずらい4番から。
幽玄な低弦が強くならずに奏され曲は始まります。旧録音とはまるっきり違います。
その後もゆったりととても丁寧に進んでいきます。
そして、何という呼吸の深さでしょう!
繊細なだけではなく、盛り上がるところでは充実した響きで満たされます。金管も包み込まれるような豊かな音です。
また、せっかちに盛り上がることは決してなく、ごく自然にじわじわと盛り上がっていき、大きなクライマックスが築かれます。
この4番は第3楽章ラルゴがさらに幽玄で長く、暗い木管のつぶやきもあります。
この曲は、全楽章を通して、室内楽的な響きが多く、はっきりとした歌のようなメロディーは聴こえてきません。ラストに向かって「解決」となる演奏効果を狙える曲でもありません。
しかし、この演奏は最初から最後まで決して気が抜けることなく、真剣なマゼールを聴く事が出来ました。シベリウスのスタイルにもはまっています。(これも旧盤との大きな違い)
ついでですが、第4楽章で出てくるグロッケンシュピールは、クライマックスだけチューブラーベルになっていました。(通常はどちらかに統一されている?)
5番の演奏でも、仕上げについて全く同じ印象で、素晴らしく充実した響き、繊細な表現、安易な効果を狙わない真剣なマゼールが聴けました。
文句を言う人がいるとすれば、「このシベリウスは立派すぎる」と評するかもしれません。
さて、これなら6番もいいはずです!
旧盤のテンポ、ダイナミクスは自分には受け入れられませんでした。
この曲はひっそりと透明にあくまでも落ち着いて表現して欲しいんです。
こんな中でも激情が湧き上がる箇所が短いながら第3、第4楽章にあります。
そして最後の感動的な高弦の合奏、弱音で終わるフィナーレ。
丁寧に、決してあせらず、気持ちを込めて表現して欲しいんです。
今回の新盤の演奏は旧盤とは別人、別物の演奏でした。
マゼールの演奏は旧盤ばかりほめる自分でしたが、このシベリウスは素晴らしく良かったです!! それも今まで気づかずにお蔵入りにしていたんです。
彼の1990年代以降に感じられた小手先芸のような演奏では全くなかったということが、何よりも嬉しかったです。
マゼールは、ピッツバーグに戻って、いい仕事も残してたんですね!!
3番と管弦楽曲、ヴァイオリン協奏曲は手元になく未聴ですのでこれから入手して聴いてみたいと思います。
とても楽しみです!

さようなら! マゼール (3)

1960年代、マゼールがウィーンフィルとDECCAに録音したディスクは今でも(これからも)輝きを失わない素晴らしい鮮烈な記録だと思っています。
これらの記録は「迷いなく一気呵成に前進する、生命力みなぎる演奏」とでも言えると思います。
このような特徴は若い演奏家共通のものでもあると思うのですが、それに加えてマゼールは演奏の真剣さ新鮮さで際立っていて、彼の若い時の記録は正にオンリーワンであったと強く思うのです。
1990年代以降の彼の演奏には、非常に素晴らしいものもありますが、若い時の面影はなくなってしまったと感じます。
成熟した表現には若さが同居しないのは当たり前だとも思います。
しかし、マゼールの場合、演奏の真剣さ、演奏の新鮮さも明らかに無くなっていきました。
自分は若い頃の彼が大好きだったので、こんな風には思いたくありませんでした。
1990年代以降の彼の演奏もずいぶん聴きました。
ウィーンPO、バイエルンRSO、ニューヨークPO、ミュンヘンPOとのシューベルト、ブラームス、チャイコフスキー、ブルックナー、マーラー、ドヴォルザーク、ワーグナー、プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィッチの交響曲、管弦楽曲。
盛り上げる箇所以外は気が抜けているように感じられる演奏が多くなっていきました。フィナーレだけは大見得を切ったりしてブラヴォーをもらう、という演奏を度々耳にするようになってしまいました。
大見得を切る演奏が嫌いなのではありません。彼が真剣に作った演奏を届けて欲しいんです。
でも、彼はあまりにも頭が良すぎて、特に歳をとってからは、演奏の出来や聴衆の反応や評判など結果がすぐに見えてしまうようになってしまったのではないか? 彼にとって晩年の彼を取り巻く状況は、彼にとって刺激がなさすぎたんじゃないかと思うんです。
彼のような有り余る才能には、ベルリンフィルの音楽監督しかなかったのかもしれません。
事実、彼もその気充分だったから、ベルリンフィルのポストを逃した時、あれほど落胆したのではないでしょうか。
彼が1982年から1984年にかけてベルリンフィルと録音したラフマニノフの3つの交響曲は充実した真剣な演奏です。熱気も感じられる素晴らしい出来だと思います。
ちょうど同時期にウィーンフィルとの録音もかなり出ましたが(マーラーの全集も)、ベルリンフィルとの演奏に比べると、気合いの入り方が明らかに違うように聞こえてしょうがなかったんです。
1983年、ウィーフィルがマゼールと来日した時、FM放送で中継されたマーラーの第5交響曲を食い入るように聴きました。真剣なマゼールではないと、この時も憤慨して友人に電話したことを思い出しました。当時の映像がアップされているのを見つけて聴いてみましたが、印象は変わりませんでした。(世評は悪くなかったようです)
ただ、ベルリンフィル常任争い直前の彼のベルリンでの演奏に精彩を欠いていたものがあった、との記事も読んだことがあるので、さすがのマゼールも疲れていたのかもしれません。
そして、1990年にベルリンフィルのポストをアバドに持っていかれた彼は、古巣のピッツバーグ(アメリカ)に引きこもってしまいます。
マゼールがやる気のない指揮をすることがあり、オケのメンバーがマゼールに殴りかかったという記事は、いつ頃の演奏のことなのか分かりませんが、最近目にしたものです。
今、確かめてみたくなったことがあります。
マゼールが1990年~1992年にピッツバーグSOと録音したシベリウスの交響曲全集です。
このシベリウス全集は、ベルリンフィルと録音が予定されていたもので、彼が気合いを入れて録音したものではないかと思います。彼も出来栄えに満足していたそうです。
何曲か、じっくり聴いてみたいと思います。

さようなら! マゼール (2)

「マゼール」で検索すると、最近のマゼールの動画が数多く見つかり、また最近のものに偏っていると思います。
しかし、彼の若年期、壮年期の音楽は、正に別物、彼は別人でした。
このように昔の彼を懐かしむ者は彼の変貌についていけていないのだ、と言われます。
手元に、マゼールとウィーンフィル(VPO)のチャイコフスキーとシベリウスの交響曲全集があります。1960年代にウィーンゾフィエンザールでジョン・カルショウがプロデュースを手がけた名録音です。
とにかく、この演奏は素晴らしい! 凄い!!
マゼールを偲んで、チャイコフスキー全集から録音順に聴き直してみることにしました。
第1番「冬の日の幻想」から。
そうです! 鮮明に思い出しました!!
ふつう、その曲に慣れ親しんだあとに聴く2つめの演奏には多少なりとも違和感を覚えるものです。
このマゼールの演奏は最初に聴いた演奏ではないのに、もう興奮に近い感激でした!!
演奏に違和感を感じながらも、説得させられてしまったんです。

さようなら! マゼール (1)

2014年7月13日 アメリカ在住の大指揮者LORIN MAAZEL(ロリン・マゼール) が、自宅で亡くなりました。
84才。今年の春に体調を崩し、回復することなく逝ってしまいました。
自分は、マゼールが30代から40代ごろの鮮烈な演奏に強く惹かれていました。
最初に聴いたマゼールの録音ですが、
1963年録音のウィーンフィルとのチャイコフスキー「悲愴」、1971年録音のニューフィルハーモニアとのムソルグスキー「展覧会の絵」から聞き始めたのを覚えています。
当時は中学生でしたから、FM放送を録音したテープ(オープンリール!)を大切にくり返し聞いていました。
同曲異演の聞き比べなんて出来るようになったのは、ずっと後になってからでしたが、この2曲の録音は今でもCDで聞き返したりしています。
マゼールの演奏を大量に聞けるようになったのは、大学生になって無料の試聴室に通うようになってからでした。
上野の東京文化会館4Fに音楽資料室があり、楽譜などと共に膨大な数のLPレコードが貯えてあるんです。国内で市販されたクラシックのLPはもれなく揃っているようです!
この膨大なLPレコードのリストを閲覧して、希望レコードを用紙に書いて受け付けに提出する訳です。
自分の順番が回ってくると呼び出され、指定された座席でヘッドフォンを耳にあてて待っていると、間もなく曲が流れてきます。
LPレコード1枚分聞き終わると席を立たないといけませんが、次のレコードを聞きたければ、リクエスト用紙をもう一度書いて出せばいいんです。
同じ曲を違う演奏で一日中聞き続けて、係の方に呆れられたこともありました。
(現在はCD、DVDもあるようです。サービスも続けられています)

吉田秀和さん死去

5月22日夜、鎌倉の自宅で亡くなられたとのこと。
名曲の楽しみでのややぶっきらぼうな語り口。
でも、この人は真実を語ってくれる人だと思っていました。
コマーシャリズムとは遠かった人なのではないかと。
ホロヴィッツが来日した時も
「骨董品になってしまったね。それもヒビが入ってる」
と、ハッキリ、しかもNHKの放送で言ったんです。
まあ、だからあの時のホロヴィッツはどうこう、とか
そういうつもりではありません。
水戸室内管弦楽団の創設者でもありました。
あのオケはヨーロッパでも最高に賞賛されていいオケだと思います。
吉田さんの著作をこれから読んでみたいと思っています。